出産一時金の新制度に産科開業医ら悲鳴?

 元記事の毎日新聞の記事(http://mainichi.jp/select/wadai/news/20090922k0000m040112000c.html)は、現行制度の一部しか説明しておらず、指摘不足の感はいなめないので、制度についてまず補足します。


 平成18年以前は、出産後に出産(または死産)を医師、助産師、又は市区町村長のいずれかの証明した書類を添えて保険者に申請しました。申請後、保険者は申請者に出産一時金を支払っていました。


 しかし、出産に関する経費を医療機関の窓口で支払わないが増えたり、支払いそのものが困難な状況があることから、平成18年から出産前に書類を提出することで、出産された方に代わって、保険者から直接医療機関等に、出産育児一時金35万円(現在は38万円)を限度として支払われ、窓口で出産費用を支払う負担を軽減する制度が始まりました。


 平成18年以前は、一部の保険者においては申請者ではなく医療機関への支払いを行う受領委任払いを行っていました。平成18年以降は制度として医療保険者は必ず行うこととなりました。
 ※ちなみに、後期高齢者医療制度等も同時に国会で可決されている医療制度改革関連法案によって制度が作られています。


 受領委任払いの場合、確実に保険者から医療機関へ出産一時金を支払うため、窓口での不払いが多い医療機関では積極的に受領委任払い制度を活用するところもありました。他方、窓口での現金払いではなく1ヶ月から2ヶ月遅れで保険者から振り込まれることから、制度の趣旨にのっとり出産費用支払いの資金繰りが困難な場合等に限り事前申請の証明を行う医療機関もありました。


 平成21年10月からは、出産育児一時金医療機関へ直接支払う仕組みとなるため受領委任払いを積極的に活用していた医療機関では受領委任払いに関する書類作成事務が軽減される一方、現金払いが多かった医療機関では最大2ヶ月遅れで出産経費が振り込まれることになります。
 ※保険者が怠慢というわけではなく、毎月1日から末日までの分を集計したとして、翌月10日までに保険者に請求をし、翌月末にお金が振り込まれるというサイクル。もっとも出産毎で請求をする、ということが可能かという疑問は残ります。


 ちなみに医療機関の請求金額が出産一時金の支給額を下回った場合、その差額支給は出産した方が保険者に個別に申請することになっています。


 医療機関としては、出産費用の取りはぐれがほとんどなくなる(保険資格の得喪が面倒)一方、保険医療と同じサイクルで出産医療費が振り込まれるとなると、制度開始時の資金繰りが問題となります。まあ、本来はその問題は知った上で制度改正を検討していると思うので、今更の感があります。


 この制度改正で一番損をしそうなのが各医療保険者です。出産一時金が42万円に上昇したことで、被保険者の保険料は上昇させなければならないし、支払いも被保険者と医療機関へ両方への支払い、医療機関のみの支払いとなり、事務量は倍近く増えることとなります。(ダブルチェックや未申請者への勧奨事務等、これまでにない業務も増えそうです)


 一時金に関しては、自分が保険者の部署にいたころの出産一時金の考え方は現物給付ではなくて、実際にお金を払った後に償還として現金で支給されるもの、という考え方でしたので、隔世の感があります。


 記事では開業医の声を取り上げていますが、今回の制度改正そのものについて、受領委任払い制度の選択制をスタートさせたのも、出産費用の医療機関直接払い制にしたのも日本産婦人科医会からの要望(産科医療補償制度開始 産科医療補償制度開始 にあたって)がなされたことからも、制度施行時の各医療機関の声というのは少し理不尽にも思えます。